ゴッドタンの面白さの秘密とは。ヒム子の笑いと哀愁、毒と涙から考える。

要約:ヒム子企画からゴッドタンの面白さを考える。ヒム子はドキュメンタリーであり上質なコントで泣き笑い。ファンタジーを信じる力。

Tweet

テレビ東京 ゴッドタンの新作DVDが2本同時に発売される。そのひとつに「恋するヒム子ドッキリ」が含まれているので、機会を逃していたヒム子のエントリを書いておこうと思った次第。釣りのようなタイトルに負けてないだろうか。

このtweet見て、録画を見返した。DVD発売が楽しみ。このDVDが売れたら嬉しいけど、別に見返りはない。アフィリエイトリンクじゃないし。ゴッドタンの凄さを書いておきたいだけ。あ、DVDが売れたらゴッドタンがずっとずっと続くかもっていうメリットが自分にありました。

ゴッドタンのヒム子のおネエドッキリ企画。この企画はもともと、アイドルの性格がいいかをチェックする意図ではじまったが、今では性格チェックはどこへやら。ヒム子の大本はDVD発売記念のたびに行われる「アイドルにおっぱいを見せてもらおう」というばかばかしい企画が発端で、おネェだったら見せてもらえるのではということで、日村が演じることとなった。

ゴッドタンは“ばかばかしい笑い”が前面に出てくるけど、ヒム子は人間の哀愁が描かれている。“信用できる”という感覚を覚える。

ドッキリ企画で、つくりものだと分かっているのに、ヒム子の叶わぬ恋に涙してしまう。同時に大笑いしている。ドキュメンタリーでもあり、上質なコント。ドッキリという形だからこそ見られる、豊かな表情。気持ちと共に表れる表情の揺らぎは、恋愛ドラマを凌駕するほどしっとりしている。

マジギライ、キス我慢など、ゴッドタンは人の感情を全て扱っていると思っている

日村のディティール

キス我慢THE MOVIEで全編アドリブをこなし、あいな嬢に「視聴者の期待をはるかに上回る天才的な個人技」を持つといわれる劇団ひとりに、「こんなにおネェキャラうまい人って、あんまいなくない?」と言わせる日村。

森田涼花の回で柔道の技をかけられる時には、腰が逃げてしまい内股で転んでしまう。体の使い方が本当に女子っぽい。

℃-ute 矢島舞美の回オープニングで、矢作に「日村さんは普段でもブラつけてますから」といわれた際、 「してないわよ」とヒム子のままで返してしまう。

表情ひとつ、指先から身体の動きの一つひとつに隙がなく、ホンモノのおネェだと思えてくる。

設楽のアシスト、劇団ひとり・矢作のウォッチングと悪ふざけ

矢作、劇団ひとり、小木がウォッチングしているので、日村の一挙一動の意味が解剖される。設楽はアイドルと一緒の場で日村をアシストする。

劇団ひとりと矢作の悪ふざけで、無理のある指示がくる。後輩芸人の前ではおネェを隠している設定なので、「どんだけ〜」「言うよね〜」を男バージョンで言わされる。「ドンペリ気取ってんじゃねえぞ」「ボンジョビ」と意味不明なフレーズに、共演者も笑いをこらえるのに必死。

矢島舞美の回では、ヒム子登場時点で彼女は少し引いている。しかし、設楽は「すごい派手な服、オシャレな豚みたい」と言う。こうやって客観的な目線を入れることで、矢島も徐々に受け入れていけるように設楽が地ならしアシストをする。

ヒム子を全うする日村

何より凄いと思ったのがここだった。森田に肩もみされているときに、設楽が突然クモのおもちゃを投げつけるのだが、いきなり投げつけられた「恐い物」に、とっさであるにもかかわらずおネェとして対応する。こういった細かな積み重ねがヒム子に「リアリティ」を与える。

ヒム子#06

再度、突然モノを投げつけられるんだが、よくまあとっさに「ぬんっ」なんて出るもんだ。これには森田涼花も笑ってしまい、ガードが緩む。矢作も「ヒム子、抑えたよねえ」と、「ヒム子」を全うしている日村に感心する。

ヒム子 #06 ぬんっ

共演者どうしが即興の積み上げ

ヒム子がブラを付けたまま本番に向かおうとすると、「そこはそれでやってよ」と設楽が止める。これを受けて、ウォッチングルームの矢作・劇団ひとりから、“プライベートではおネェでもいいから、本番では表に出さないようにしている”と解説が加わる。“バナナマンとして、テレビの裏と表で使い分ける”という設定を、設楽が自然と言葉にし、他の出演者はそれを受けてツッコミも入れ次の手を打つ。お互いのアドリブ対応力を信頼し合っているからこそできる。

仕掛けられる側だった逢沢りなは、矢島舞美の回では仕掛け人になる。ヒム子の描いた好みのタイプが前回と今回で全く違うのを見て、逢沢は「変わりやすいよね」とコメントし、矢島が信じやすいようにフォローしている。

キス我慢もそうだが、大枠の設定を用意し、即興でやりとりが積み上げられ、それ自体がドキュメンタリーでもあり上質なコントになっていく。

悲しきモンスター ヒム子

決して成就しない恋、相手は妻子ある番組プロデューサーの佐久間。愛する人の息子、妻の前で複雑な思いを抱えるヒム子。

逢沢りなの回、ヒム子は佐久間Pのニセ子どもに素っ気ない態度をとり、設楽にたしなめられる。劇団:「好きな人の子どもだからね」、矢作:「子どもにあんな素っ気ない握手する人いないよ」と、ヒム子の心の動きを解説。設楽は「日村さん、今のは良くないよ」と注意し、「現実的に考えちゃったわけ?」と、ヒム子の心の内をつまびらく。

ヒム子の行き過ぎを設楽がたしなめることで、その場の雰囲気にリアリティが乗る。バナナマンの演技力がないと出来ない。

ニセ子どもに向かって涙声で「パパみたいな力士になりたいの」と貴乃花の物真似をするヒム子。劇団ひとりが、「佐久間さんの女になりたいの」と言わせる。これを見てヒム子といる逢沢も泣いているが、言わせた劇団ひとりも泣いている。自分でやらせたくせに、「あんなピエロなまねないよ」と泣いている。「切ない⋯」という逢沢りなの深い表情が素晴らしすぎ。

逢沢が「切ない⋯」とつぶやき、このまま終わっていい流れだったのだけれど、矢作は終わらせない。劇団ひとりは、いつものようにセクハラをしてこの雰囲気を壊すことを要求されるのだが、「オレ、やだ。かわいそうだもん」と涙を拭きながら拒否する。「超いいシーン、映画にしてもいい」と劇団。設楽が「かわいそうって気持ちを愛情だと思ってぶつけてよ」と背中を押しても、劇団は「馬鹿な顔して、佐久間さんの女になりた〜いとか言ってさあ」と笑い泣きしながら、日村の元に行かされるのは「つらいよ〜」と足が重い。

回が変わって、矢島出演時には佐久間Pのニセ奥さんが登場。好きな男の奥さんの前で二億四千万の瞳を泣きながら歌うヒム子。ただ単に、奥さんの前で歌っても何も産まれないのだが、それまでに積み重ね、日村の演技力、共演者の演技力があるからこそ、リアリティがあり、気付くと泣き笑いをしている。

矢島回、ヒム子の元彼として登場した劇団ひとりは、去り際に「これ、次の恋愛に少しでも役立つと良いと思って」と、その場では展開させず、次に繋ぐ。「置いてきやがった、さすがキス我慢主演の男」と設楽がいう。奥行き感でドラマが厚い。

泣き笑いを成立させる日村

矢島回では、とうとう画が泣かせにかかっている(笑)。佐久間Pと重ね合わせるわ、肩越しに映すわ。そこにある手rっぷ1テロップが「ジャパン」と「ブリブリブリブリブリ」っていうのが好き。

ジャパン

肩越しうんこ星人

ここまでくるとドッキリとして成立してるのかと思うけど、そんなこともうどうでも良い。日村の声、動き、表情、フレーズ全てがハイレベルなので、成立する。バナナマンの盟友、ゴッドタンの構成作家オークラも「僕が書いたネタを(芸人時代の)自分が演じても全然面白くなかったのに日村さんが軽く読んで演じたら異常に面白かったんです」(Quick Japan vol.94)というように、日村が成立させている。まさにあいな嬢のいう「お笑い界の宝」だ。

仮面をかぶれるファンタジー空間

そもそもドッキリ企画であり、レギュラー陣は仕掛けている側なのに、松丸アナが佐久間Pのニセ奥さんの話を「聞きたくない」とまで感情移入してしまい、MCが泣いてしまう企画。

佐久間Pも回を追う毎に、「どんどん芝居うまくなって 」いると劇団ひとりに言われるほどこの「世界」に入っている。ニセの奥さんとバナナマンで写真を撮ることになったくだりで、「プロデューサー失格なんですけど」と悪びれる様子を見せるけれど、自然そのもの。

キス我慢THE MOVIEの記事にも書いたのだが、きちんとした設定や状況が与えられると、人はそこでの役割を理解し仮面をかぶれるのかもしれない。たいていの人が、仕事場に行くと自然とスイッチが入り、リラックスする場所と決めているところに行くと気持ちが解放されるように。

ゴッドタンは、しっかりとした”舞台”が用意され、構成、配役、演技力、演者とスタッフ全員の信頼関係によって、「ファンタジー空間」を作りあげているからこそ、このような企画が成立するのだろう。

テレビというファンタジーの力を演者もスタッフも全面的に信頼しているからこそ、この空間が作られるのだろう。そのつながりが垣間見える時に、なぜだかとても嬉しくなってしまう。

コメントを残す